第6話

 

新たなる世界で

 

~第6話・前篇~

 

 

あれから翔平と聖子、良子の三人は園長先生に魔法の基礎からみっちりと鍛えられて一ヵ月半を過ごした。
そして入学も近くなって来て明日買い物に行く予定になって居間で聖子達は楽しそうに話していた。
 
「本当に先生の授業は厳しかったけど楽しかったわよね」
「うふふふ、それ言ってもらえるとうれしいですね」
「いいですね~、私の時も厳しく分かりやすく、そして楽しくでしたからね~」
「良子もそう思うでしょ?」」
「う、うん。でも翔平君が……」
 
四人が部屋の隅のほうに目を向けるとそこには虚空に目を向けながら体育座りでどんよりした雰囲気を抱えながらぶつぶつ呟く翔平の姿があった。
 
「あははは、妖精さんが飛んでるや~。あ、あっちにもいるじゃないか、こっちにおいで~」
「いや~! 翔平君、こんな所には妖精はいないです、戻ってきてください!?」
「園長先生、やっぱり最後のアレはやばかったんじゃないんですか?」
「そんなことはないと思うんですけど……」
「だって……」
 
「あはは、きれいな花畑まで見えるよ~、この川渡ってもいいんじゃないかな~」
「しょ、翔平君駄目です、その川を渡っちゃ駄目ですぅ~!?」
「あらあら~、ちょっと危ないかもしれませんね~」
 
「アレですよ」
「確かに見てはいけないものも見えているようですしね。由梨さん~」
「なんでしょうか~?」
「ちょっとお耳を……ゴニョゴニョ」
「ふむふむ~、わかりました~。ちょっとお待ちください~」
「園長先生何を言ったんですか?」
「うふふ、ちょっと強引な方法を取らせていただきます」
「もしかして……」
 
嫌な予感がして聖子が錆びたおもちゃのように翔平の方を見ると、そこにはぶつぶつと呟く翔平の口の中に卵焼きを入れる由梨があった。
 
「はぁ、やっぱり……」
 
卵焼きが口に入った瞬間に数秒間痙攣を起こして動かなくなった翔平を見ながら溜め息をつきながら呟いた。
 
「これで翔平君も無事に戻ってきましたし大丈夫でしょう」
「あれは無事っていっていいのかなぁ?」
「ええ大丈夫です」
「でも痙攣していたし……」
「大丈夫です」
「でも……」
「だ・い・じょ・う・ぶ・で・す」
「ハイソウデスネ……」
「ですよね、それじゃ聖子ちゃんも良子ちゃんも明日は買い物に行くんですからもう寝なさいな」
「「は~い」」
 
聖子は痙攣している翔平を心配しながらも園長先生の眼だけが笑っていない笑顔を向けられてしまい頷くしかなかった。
二人は翔平のことが気になりながらも自分の部屋に入って行った。
そして夜は過ぎて行った。
 
 
 
小鳥が鳴き、少し高くなってきた日の出の光がカーテンの隙間からさしこんで翔平の顔を照らす。
 
「ん、ん~。あれ? 何でいつの間にか朝になってるんだ、というか昨日の授業の後からの記憶がない」
 
翔平は伸びをしながら昨日の記憶がないこと不思議に思いながらも顔を洗うために階段を降りて行った。
そして顔を洗い居間に行くとすでに園長がキッチンで朝ご飯を作り、由梨が花瓶の水を換えたり身の回りを整えていた。
 
「おはようございます」
「おはようございます~」
「おはようございます、昨日は授業が終わるなりいきなり翔平君が倒れたから驚きましたよ」
「そうなんですか、だから記憶がなかったんだ」
「たぶん疲れたんでしょうね、ぐっすりと寝てましたよ。ぐっすりとね。」
 
翔平は園長の言葉にわずかな疑問を持ちながらも信じ込んでしまい、そのまま椅子に座って新聞を読んでいた。
 
「翔平君、もうそろそろ朝ご飯ができるので運んでくれますか? 由梨さんは二人を起こしてきてください」
「はい」
「わかりました~」
 
翔平がご飯を運び終えるぐらいのときに二人を起こし終えて降りてきた由梨達が居間に入ってきた。
そのまま全員が席についていつものようにみんなでご飯を食べ終えて片づけを園長と由梨が行い、その間に子ども組が準備をすることになった。
 
「あれ? まだ二人は降りてきてないんですか?」
「女の子はお出かけの準備に時間がかかるんですよ、それぐらいは解っとかなきゃいけませんよ」
「そうなんですか」
 
すでに出かける準備の終えている大人二人と翔平は居間で聖子達が降りてくるのをお茶を飲みながらまったりと待っていた。
 
「みんな、待たせてごめんなさい。」
「す、すみません」
 
二人が降りてきて全員で玄関に向かった。
玄関を出て少し歩くと普通の人が動き出している時間帯らしく街中はにぎやかだった。
翔平は今まで外に出ることが滅多になく、出たとしても隣の柴田家に行くちょっとした住宅街のみであった。
またこのセスタス孤児院に行くときには両親が死んでしまったせいで混乱していて町中を見る余裕などなく、ゆっくりと見るのはこれが初めてとなるのだ。
―街自体は中世のような造りだけど文化や科学技術などは元の世界と同じでそう変わらないんだな―
 
「皆さん今日は休日ということもあって混んでいますのではぐれないようにしてくださいね」
 
園長が人のあまりの多さに心配になって忠告するが翔平は初めて見る目新しい街並みに目を奪われて耳に入っていなかった。
 
「それじゃ、まずは聖子ちゃん達の新しい服を買いに行きましょうか?」
「なんで服を買うんですか?」
 
聖子の疑問も最もだった、すでに孤児院に入るときにたくさんの服を買ってもらい着るに困らない数があるのだ。
 
「女の子の服なんかはやっぱりブームというのもありますし、制服は入学式の後に各部屋に二着ずつ支給されんですよ。やっぱり入学式には新しい服で出てもらいたいですから」
「「は~い」」
 
聖子と良子は嬉しそうに笑いながら返事をした。
そのまま談笑しながら歩いて行くと大きな噴水のある広場にでた。
 
円形の広場にはクレープなどの屋台などがあり、広場から来た道を含め七本の道があった、それはそれぞれ住宅街を第一街、高級住宅街を第二街、一般家具等の商店街を第三街、冒険者などの特殊職用の商店街を第四街、遺跡などのダンジョンを第五街、街の出入り口の門を第六街、そして自分たちが通った孤児院や病院などの国によって経営される国営施設への道を第七街という様に分かれている。
 
そして翔平達は第三街を進んで行くとある店の前まできて目的の場所なのかそのまま入ろうとする。
しかし翔平は顔を引きつらせながら入るのを拒んだ。
 
「ん? どうかしたんですか翔平君?」
「あのー、どう見ても婦人服専門店のような気がするんですが……」
「そうですけど……あぁそういうことですか、まだ子供なんですから気にしなくてもいいのに」
「俺は男ですよ、恥ずかしいに決まってるじゃないですか。
そこのベンチに座ってるんでゆっくり買ってきてください。」
「うふふふ、そうですね。翔平君は立派な男の子なんですから当然のことですね。
わかりました、すぐに戻ってきますのであまり動き回って迷子になっては駄目ですよ」
「わかってますって」
                                               
園長はそれだけ言って店の中に入って行き、それを見届けて翔平はあまり遠くまで行かないように心掛けながらいろいろな店を見回った。
翔平が歩きまわっていると店の裏路地から怒鳴り声が聞こえ、翔平は興味をそそられて見に行った。
そこには五人の男性と一人の女の子がいて一方的に男性陣が怒鳴っているようだった。
 
「おい、お前のせいでうちの仲間が怪我しちまったじゃねーか!」
「わりぃことしたら謝るのが礼儀だろーが」
「まぁ、謝ってもそれなりの誠意を見せてもらうがな」
「……ぶつかってきたのはそっち……」
「んだど!!」
 
男達が掴みかかろうとしているのをみてさすがに止めなければいけないなと思い走り出した。
しかしどこからか来たのかロン毛の男が止めようと声を上げながら走ってきていた………が、誰も気づくことがなく、
 
「おい、君た 「もうそこまでにしておけよ」…ち」
「あの~ 「なんだテメ―は!」」
「話を聞 「通りすがりの一般人だ!」…き」
「無視をす 「通りすがりならすっ込んでろ、出しゃばるんじゃねぇ!!」…るな」
「僕はあの大 「彼女は嫌がってるだろ!」…貴族…」
「レゲトール家の 「埒があかねぇ、どうせガキ一人くらいなら造作もないぜ」…息子…」
 
男たちは翔平に飛びかかるが咄嗟にワンステップ下がり一番前の男の顎を裏拳で打ち抜いた。一番前の男が脳を揺さぶられ崩れ落ち、すぐ後ろの男二人が足を取られてこけた。
 
「クソッ!これでもくらいやがれ」
 
左右から来た右側の男の一人が火の玉を打ち出してきて左側の男が少しタイミングをずらし飛び込んできた。
翔平は右手に魔力を纏わせて限界まで密度を上げて火の玉を殴り消滅させる、そして飛び込んできた男に対して左のストレートを顔面に振りぬいた。
カエルが踏まれたかのような声を出して倒れる男を見ながら先ほど火の玉を出した男は、
 
「よくも仲間を! くらえ、秘儀豪炎拳!!」
男の拳に火がつき、その拳を振りかぶってきたが、それに合わせて、
 
「拳に火が付いてるだけで大層な名前を付けてるんじゃねぇ!!」
 
叫びながらカウンターを振りぬいた。
そして次の男が襲いかかってくるのに備え前を見るとすでに服の所々が切れながら気絶していた。
前を見ると襲われそうになった女の子が悠然と歩いてきた。
 
「やぁ、君た 「……ありがと」…ち」
「僕は 「いや、気にしないでくれ。自己満足だから」…かの」
「有名な 「……でも助けてくれた。名前聞きたい」…大貴」
「族の御曹 「金田翔平だ、ってやばい! ごめん戻るから!!」…司だ」
 
翔平は結構時間が経っていることに気づいて一言戻ることを告げて走り去った。
少女はそれを見届けてフワリ中に浮いて飛んで行った。
そこに残ったのは五人のボロボロの男とずっと突っ立ったままのロン毛のみであった。
 
 
 
 
あとがき
 
大変遅れてしまいすみませんでした。パソコンが動かなくなってしまい修理に出していました。だがしかし!! ちゃんと週に一、二話ずつ更新していけると思いますので応援、感想よろしくお願いします!!
あとできればランキングに投票してくれるとうれしいです。順位が上がれば意欲も上がる、これ作者の自己満足なり!!ってね。
それではまた後篇に……
 
 
 
 
 
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