第2話

 

 

 

 

新たなる世界で

~第2話~

 
 
 
俺たちの息子は少し成長が早かった、いや早すぎる。はじめに翔平を抱えあげたときにすでに理性の様なものを感じた気がした。しかしそれは気のせいだったのか次の瞬間にはかわいく無邪気な顔だった。
・・・かわいい、我が息子ながらとてつもなく可愛い。これから順調に育ってほしいものだ、そのかわいい息子のためにも遺跡に稼ぎにでも行ってくるか・・・
(志朗の翔平育児日記483ページ抜粋)
 
 
 
私は今年で5歳になった。多少の魔力のコントロールもできるになってきた。
元が魔力などなかったのだから魔力という未知なるものに夢中になっても恥ずかしいことではない、ないったらない。
 
魔力を初めて感じたのは4歳のころに心臓が妙にぽかぽかしていたと思ったときだ。
父がそれは魔力が活性化しているからそのまま心臓の温かさを広げるようにしてみろとアドバイスをくれたのだが、
・・・わからん。
温かさを出すなどと抽象的なことを言われても感覚がわからないのではどうしようもない。これに関しては後々の成長のためにも自分で感じ取るしかないらしく両親も感覚を掴むまで苦労したらしい。
むぅ、この温かみが魔力だと言われてもどうやって広げればいいのだろうか。
まず魔力を水、心臓をバケツと仮定すると蛇口から水がバケツにはいっていきそしてあふれて床に広がるといったような感じでどうだろうか。
目をつむってイメージするんだ、蛇口からバケツに水が溜まって溜まって・・・そして溢れる!!
 
ポワァ
 
勘違いでなければ一瞬できたような気がしたけれど父に聞いてみるかと振り返って、
 
「お父さん、今できたよねっ!?」
 
びっくりした、何がってそりゃ私が初めてなのに魔力の感覚を掴んだこと・・・
ではなく父の顔に驚いてしまったのだ。
だってあの強面の顔が目を見開いて顎が外れているのではというぐらいに口をあけてこっちを見ていたのだから。
少ししてから父は、
「もうできたのかいやできたよな、さすが俺の息子だ。魔法の才能があれば職には困ることはぜったいないしこれなら対術や剣術なんかができれば騎士にもなれるんじゃないか、いや歴史一の騎士も夢じゃないかもしれない。騎士じゃなくても上位魔道士かいやまて回復に優れていたら医者になれるかもしれんぞ。わははははははは。」
と一息で言いながら私を持ち上げて回し始めた。
・・・
グルングルン
・・・
グルングルン
・・・
「お父さん、もう・・・。」
「わははは。」
聞いてない!?
・・・
グルングルン
・・・
グルングルン
・・・
「お父さーん、降ろしてー。」
「わははは。」
やばい・・・・気分が・・・出る!?
・・・
・・・・・・
ゴバッ
 
「ぎゃぁーーー!?」
 
吐しゃ物をもろに顔面に被ってしまった父は私を降ろして猛スピードで風呂場に駆け出して行ってしまった。
 
だから降ろしてって言ったのに聞いてくれないからこうなるんだよワトソン君。
 
それから少しして服を着替えて父が戻ってきたのだが服装が戦闘服になって母と一緒に戻ってきた。
 
「翔ちゃん、ちょっとお父さんとお母さんはお仕事があるからお隣の柴田さんのお家に預かってもらうことになってるんだ。だからお母さんとお泊りの準備を一緒にしましょうか。」
 
母さんの言葉でまた父と母が遺跡に稼ぎに行くのだとわかった。
二人が遺跡に行っている間いつもお隣の柴田さん老夫婦の家にお世話になっている。
老夫婦の息子さんたちはすでに独り立ちしていて二人で暮していて寂しいらしく預かられている間はとてもよく可愛がってもらっている。
 
準備を終えてお隣に挨拶に行った。
「またお世話になります。よろしくお願いします。」
「よろしくねぇ、自分の家だと思ってゆっくりしてね。」
「翔ちゃん、よくきたなぁ。」
柴田のおばあちゃんとおじいちゃんが嬉しそうに答えてくれた。
私はそれに笑顔で答えながら柴田家の玄関をくぐり懐かしさのようなものを感じていた。
 
柴田老夫婦の家にお世話になって三日後に事件は起きた。
 
父と母と一緒にパーティーを組んでいた仲間の人たちが駆け込んできたのだ。
「大変だ!!志朗さんと恵さんが○△☆□。」
相当に焦っているのか最初の部分しか聞き取れなかった。
 
老夫婦が落ち着かせて聞いてみると多少焦っているものの聞き取れるぐらいには落ち着いていてきた。
 
彼らの話を要約するといつも道理に遺跡を進んでいたのだが奥のほうで縄張り争いに敗れて逃げてきた魔獣に出くわしてしまったが手負いだといっても彼らのパーティーでは勝ち目がないほどの高位の魔獣だったらしく両親が足止めになってみんなを逃がしたと言うらしい。
 
私たちは話を聞いて急いでギルドの救援隊と一緒に両親を助けに行った。その時に私は家に残るように言われたのだがこの世界で一番大切な両親である、助けたいと無理を言ってついていった。
「絶対に離れるんじゃないよ。」
私は誰が言ったかわからなかったがその言葉に頷きながら彼らの背中を追っていった。
 
遺跡に着いて魔獣と出会った場所まで急いで行ってその光景に私たちはいや私だけだろう言葉を失った。
なぜなら両親は遠くから見ても致命傷だとわかるほど血をながしながら地面に倒れ伏していたのだ。
私が言葉を失って動けないなか救援隊が両親に必死に助命活動を行っていたのだが助からないのだろう、何人かが首を横に振っていた。
「翔ちゃん・・・」
父の声が聞こえた。おそらく治療中に私が来ていることを両親に教えたのだろう。
「翔ちゃん、こんな・・・姿で・・・ご・・めんね。早く帰る・・・約束・・してたのに・・」
母さんがとぎれとぎれに言葉を紡いでいく。
「翔ちゃんが・・・生まれて・・・から・・の・・この五年間は・・とってもしあわせ・・だったわ。あなた・・の花の・・ような笑顔、天使のよ・・うな寝顔・・・全てが私たちの・・宝物だったわ。」
「翔ちゃんが・・俺たちに・・与えてくれた・・ものは数知れない。遺跡を進み・・魔獣を倒すこ・・としか・・能のない・・俺が初めて手に入れた・・・幸せだった。俺たちは翔ちゃんに・・・感謝しているよ。」
 
いつからだろう私のほほを涙がつたって言っているのに気がついた。
「私もお父さんとお母さんにとっても感謝しています。だから死なないでください。」
嗚咽を止めることはできなかったがなんとか言葉を紡いでいった。
「私たちは・・あなたのことが大好きだから・・・」
「俺たちは・・・翔のことが大切だから・・・・」
「「翔ちゃん、本当に愛しています。だからこれからを幸せに後悔しない様に生きなさい。私(俺)たちの分まで幸せに・・」」
それだけを言い切ると二人は動かなくなってしまった。
二人はまだ生きているかのように美しく、また翔ちゃんと笑いながら起き上ってくるかのように。
私はただ二人の体にすがりつき泣き叫ぶしかできなかった。
 
自分が気軽に傭探者の仕事を簡単に重い暇つぶしのように考えていたこと、もっとなぜ両親に甘えてあげれなかったのか、そしてこの世界でつまらないのはいやだからと何かが起こることを期待してしまった自分に後悔と怒りを抱きながらただただ悲しみを涙で押し流すように泣き続けた。
 
 
 
彼の運命の歯車がまた一つ回り始めた・・
そしてこれからもいくつもの歯車がかみ合って運命を紡ぎだす。
 
 
 
 
 
 
あとがき
間があいてしまって申し訳ありません。
今回の展開はいかがでしたか、よろしければ感想をお待ちしております。
それではまた次回にお会いしましょう。

 

 

 

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